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女教師美穂 ~淫虐の罠~

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2.困惑



 シャワーを浴びたぐらいでは体に残る気怠るい疼きを洗い流すことは出来なかった。美

穂はバスタオルを体に巻き、再び部屋に戻って来るとそのままの格好でベッドに腰を下ろ

した。

 ふと部屋の中央に置かれたテーブルに目がとまる。テーブルの上にはグラスがひとつだ

け、ポツンと置かれていた。グラスの底には琥珀色の液体が少しだけ残っている。

(・・・・あれも夢ではなかったのかしら?)

 美穂はグラスをじっと見つめながら、頼りない昨日の記憶を手繰り寄せる。

 憶えているのは、橡葉によって美穂が住むこの部屋に運び込まれた後のことだけだ。ど

んな風にして学校から連れ出されたかはまるで記憶に無い。

 橡葉は美穂をベッドの上に寝かせると、勝手の分からぬ他人の部屋を右往左往しながら

何かの準備をし始めた。美穂は今だ冷めやらぬ快楽の甘い余韻に浸りながら、その様子を

ぼんやり眺めていた。何故か忌まわしい陵辱者に部屋の中をうろうろされているにも関わ

らず、不思議と怒りや屈辱感といったものは湧いてこなかった。

 間も無くバスルームから水音が聞こえてきて、美穂はそこで始めて橡葉が入浴の準備を

しているのだと気付いた。やがて、シャツを腕まくりした橡葉がバスルームから現れた。

 橡葉は枕元に座ると、美穂の服を脱がせ始める。体からすっかり力が抜けてしまった美

穂は橡葉のされるがままに裸になっていった。やはり、どういうわけか嫌悪感も屈辱感も

感じない。ただ、裸を見られる恥ずかしさだけがあった。

 全裸になった美穂は橡葉に連れられ、バスルームへと入った。橡葉は学校での玩弄が嘘

のように優しかった。美穂は体の隅々まで洗ってもらいながら戸惑いを隠せずにいた。ど

うしてこんなに橡葉が優しくしてくれるのか、理由がまったく分からない。

 ボディソープの泡をシャワーで洗い流すと、橡葉は美穂を抱き上げて湯船にそっと横た

え、バスルームから出て行った。結局、美穂をいたぶるような行為は一切無かった。

 橡葉が用意してくれたパジャマに着替えて部屋に戻ると、どこかへ電話している橡葉の

後姿が目に入った。美穂は、

(どこに電話しているんだろう?)

 と疑問に思いながらベッドに腰掛けた。

 やがて、電話を終えた橡葉はグラスにウイスキーを注いで美穂のもとへと持って来た。

美穂は差し出されたグラスを素直に受け取った。中のウイスキーを少しだけ口に含み、咽

喉に流し込む。焼けつくような熱さが食道から胃袋へと流れ込み、やがてじわじわと体中

に広がって行った。

 それから美穂は橡葉に寝かしつけられ、頭や頬を撫でられながら深い眠りについた。不

思議に穏やかな気分だった・・・・・・

 次第に鮮明になってゆく記憶に美穂は戸惑った。記憶がリアルに甦れば甦るほど、それ

が本当にあったこととは信じられなくなっていく。

 何かモヤモヤした気持ちを抱えながらも、美穂は出勤のために身支度を整え始めた。



 どんな顔で橡葉と会えばいいのか、美穂は思い悩みながらだらだらと続く坂道を上って

行った。今日は黒いパンツスーツに身を包んでいる。昨日のことを考えると、とてもスカ

ートを穿く気にはなれなかった。もっとも「服を脱げ」と命令されたら何を着ていても一

緒なのだが・・・・

 絶え間なく降り注ぐ雨の中、薄いブルーの傘を差して坂道を上る美穂の足取りは殊の外

重かった。

 坂道のちょうど中程で、美穂は昨日とまったく同じように後から優紀に声を掛けられた。

振り向くと、鮮やかな赤い色の傘を差した優紀が、小走りに近付いて来るのが見えた。

 優紀は美穂に追いつくと、

「先生、今日も気分が悪いの?、なんだか元気無いみたい」

「え?・・・・そ、そうかしら?、もう平気よ」

 美穂は内心ドギマギしながら答えた。

「ちゃんと保健室で休んだの?」

 優紀は美穂の顔を覗き込むようにして言う。

「え・・・ええ」

 美穂の口からは曖昧な言葉しか出て来ない。優紀の率直な眼差しは、相手に嘘を吐くこ

とを許さない力を持っていた。まさか倉庫で橡葉と淫らな行為に耽っていたなどとは言え

ないが、そうかといって、ちゃんと保健室で休んでいたとも言うことが出来ない。

「やっぱり休んでなかったんでしょう」

 優紀は少し怒ったような口調でそう言った。

「ご、ごめんなさい。忙しくって・・・・保健室に行っている暇が無かったのよ」

 会話だけを聞いているとどちらが年上なのか分からない。美穂は本気で自分のことを心

配してくれている優紀を見ているのが辛かった。今も微かに疼き続ける体がひどく汚らわ

しいもののように感じる。

「無理しちゃ駄目だよ。休むときはちゃんとや・・・・」

「ごめんなさい、ちょっと急ぐ用事があるの」

 美穂は優紀の言葉を少し強引に遮った。これ以上はとても会話を続けられそうにない。

 優紀は一瞬、怪訝そうな表情を見せたが、

「辛かったら無理しないで休んでね」

 優しく美穂に言った。美穂には優紀の気遣いが深く心に染みた。

「ありがとう・・・・それじゃあ」

 美穂はなんとかそれだけ言うと足早に校舎へと向かった・・・・



職員室に入る手前で美穂は、はたと立ち止まった。

(そういえば昨日・・・・わたし無断で家に帰ったことになっているんじゃないかしら)

 今までそれに思い当たらなかったのは迂闊だった。どう言い訳したらいいのか美穂が職

員室の入口で考え込んでいると、

「那村先生、おはようございます」

 背後から戸田に声を掛けられた。

「どうしたんですか?、こんなところに立ち止まって」

「あ、いえ、何でもありません」

「どうですか?、体の具合は」

 戸田の言葉の意味が分からず、美穂は思わず訊きかえした。

「あ、あの・・・それはいったい、どういう・・・・」

「急に気分が悪くなって、橡葉先生に家まで送って行ってもらったんでしょう?」

 そこで初めて美穂は理解した。なるほど、昨日橡葉がかけていた電話は、学校へのもの

だったのだ。美穂を家まで送り届けたという報告をしていたという訳だ。

「もしかして、違うんですか?」

 美穂が何も答えないでいたため、戸田は変な疑いを持ったようだった。

「まさか、橡葉先生とふたりで・・・・」

「ちょっと驚いていただけです。寝込んでしまって、学校への連絡が出来なかったもので

すから。何故、戸田先生が知っているのかなって・・・・」

 戸田が余計なことを言い出す前に、美穂ははっきりとそう言った。

「橡葉先生から電話がありましてね。それより、体の方は大丈夫ですか?」

 戸田は美穂の顔を覗き込みながら言う。どうやら疑いは晴れたようだった。

「一晩、ゆっくり休みましたから、もう大丈夫です」

 美穂は戸田の視線から逃れるように顔を背けた。戸田は少し鼻白んだ様子で顔を上げる

と、

「それにしても橡葉先生、まずいよなぁ」

「どういうこと?」

 何か妙に意味ありげな戸田の口調が気になり、美穂は思わず訊き返していた。本当は戸

田との会話など、一刻も早く終わりにしたかったのだが・・・・

「報告が遅過ぎるし・・・・いや、それ以前に那村先生を送って行く前に誰かに連絡しておく

べきじゃないかと思うんですよね」

「でも、それは時と場合によるんじゃありませんか?」

 美穂はつい忌まわしい陵辱者の肩を持ってしまった。何故か反論せずにはいられなかっ

たのだ。自分の心の動きが理解出来ず、美穂は内心少し戸惑った。

「しかしですね、若い女性教諭と男性教諭が放課後そろって行方不明になる・・・・変に勘ぐ

られても仕方ないですよ」

 戸田は言った。どうやら疑いはまだ完全には晴れていなかったようだ。美穂は無性に腹

が立った。言っていることは確かにその通りなのだが、戸田の変に人を貶めようとするか

のような言い方が気に障った。

「戸田先生はそんな風にわたしのことを見ていたんですね」

 美穂は言葉の端々に怒りを滲ませながら言い放つと、くるりと踵を返してさっさと職員

室に入って行った。

「あ、いや、ご、誤解です。僕はそんな・・・・」

 戸田は慌てて美穂の後を追って来た。必死に弁解する戸田の言葉を無視して美穂は他の

教師と挨拶を交わしながら真っ直ぐ自分の席へ向かう。

 やがて戸田は諦めて自分の席へ戻って行ったようだった。

(ちょっと可哀想だったかな?)

 美穂は少しだけ後悔しながら自分の机に・・・・・・

 美穂の脚がぴたりと止まった。美穂の机の隣りで橡葉がいつものように授業の準備をし

ているのが目に入ったのだ。美穂は一瞬、橡葉にどう接すればいいのか迷い、そして躊躇

いがちに、

「おはようございます」

 消え入りそうな小さな声で言った。

「あ、那村先生、おはようございます」

 いつもと変わらぬ挨拶だった。美穂は恐る恐る隣りの席に腰を下ろした。橡葉が昨日の

ことについて何か言ってくるのではないか、あるいはこっそり体を触られたりしないか、

と美穂は内心びくびくしながら授業の準備をしていたが、結局何も無いまま一時間目の授

業を迎えることとなった。



 美穂はぼんやりと雨に煙る外の景色を眺めていた。生徒達は一心不乱にテスト問題と格

闘している。風邪をこじらせて休んだ教師の代わりに急遽、美穂が二年生の世界史の授業

をすることになったのだが、事前にテストが用意されており美穂には何もすることが無か

った。

(それにしても・・・・)

 美穂は考えを巡らせる。

 橡葉は何故、何もして来ないのだろう。もう六時間目の授業も終わろうとしているとい

うのに・・・・

 昨日のあれが夢だったなどとは思わない。夢だったらどんなにいいだろうとは思うが、

現実的に考えれば夢でないことは明らかだ。橡葉の手には美穂の弱みがしっかり握られて

いるはずだ。にも関わらず橡葉はいつもと同じように黙々と授業をこなしていくだけで、

美穂に手を出してくる気配がまるで無い。

 昨日のあれで満足したのだろうか?、しかし、美穂はまだ橡葉に抱かれてはいない。と

ても橡葉が満足しているとは思えない。だったらどうして・・・・・・そもそも昨日、いくらで

もチャンスがあったのに、何故、橡葉は何もしなかったのだろう・・・・

 不意に授業の終わりを告げるベルの音が鳴り響き、美穂は堂々巡りを続ける思考を断ち

切って立ち上がった。

「それじゃあ、テスト用紙を後から集めて来て」

 生徒達に声を掛けながら、

(いずれにしても、どうにかしてあの写真を彼から取り返さなければならないわ)

 美穂は心の中でそう決意していた。

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