女教師美穂 ~淫虐の罠~
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美穂は急ぎ足で階段を上り、図書室へと向かった。図書室は三階建ての校舎の二階にあ
る。
陵叡中学では蔵書がかなり多く管理が大変なことから司書を雇い、図書室の管理をすべ
て任せていた。美穂は図書室に入ると入口近くのカウンターに座っている三十半ばの女性
司書に声を掛けた。
「すみませんが、ちょっと調べ物があるので閲覧室を使わせて頂きたいんですが」
「ああ、構いませんよ。今は空いてますから」
女性司書は読んでいた本から顔を上げる事無く言った。
「じゃあ、お願いします」
美穂は一言そう言うと、広い図書室の奥にある閲覧室へ向かった。
さすがに授業中だけあって図書室には誰もいなかった。しんと静まりかえる中に美穂の
靴音だけがコツコツとやけに良く響いた。
閲覧室が果たして何のために造られた部屋なのか美穂には本当のところは分からない。
およそ十畳ほどの部屋には中央に大きなテーブルが据えられ、部屋の右手の壁際にはパソ
コンが置かれている。このパソコンにはカウンターに設置されているパソコンと同様、図
書室にある全書籍のデータが入っていて、司書に頼まなくても自由に本の検索が出来るよ
うになっている。部屋の左手は間仕切りされていて、小さなスペースを倉庫のように使っ
ていた。
美穂は閲覧室に入るとドアに鍵を掛け、部屋の中央にあるテーブルの端に座った。参考
書とノートの間から封筒を引っぱり出す。中の写真を取り出す手が微かに震えていた。
「あぁ…」
写真を見るなり美穂の口から絶望的な溜息が漏れた。
(やっぱり……あの時の写真だ)
写真は計五枚あり、そこには若い女性の裸体が写っていた。
一枚目はどこかの海岸で撮られたものらしく、波打ち際をバックに黄色のビキニ姿の女
性がカメラに向かって微笑んでいる。二枚目以降はホテルの一室とおぼしき場所で撮影さ
れているようだった。上半身裸になった女のバストショット、同じ女の全裸になった全身
像と続く。
女の体は美しく若々しさに満ちていた。形良く張り出したバスト、キュッと括れたウエ
ストからヒップへと続く滑らかな曲線、すらりと伸びた長い下肢は若さを漲らせるように
張り詰めている。恥ずかしげに顔を俯ける女の表情とは裏腹に、その見事な体は自分の美
しさを主張するかのように輝いていた。
四枚目の写真にはさらに大胆なポーズをとる女の姿が写っていた。女はベットに座り、
立て膝にした脚を躊躇いがちに開いている。深く折り曲げられた長い脚の付け根には、薄
めのアンダーヘアに飾られた女の秘部がひっそりと顔を出していた。
そして最後の写真には、ベットの上に仰向けに寝転がり、大胆に脚を開いた女が写って
いた。その秘裂には赤黒い男性自身が潜り込んでいる。女は興奮しているのか、その美貌
をうっすらと上気させていた。
美穂はしばらくの間呆然とした面持ちで、写真に写し出された四年前の自分の姿を見つ
めていた。
(どうして?……何故、こんな写真がここにあるの?)
美穂は混乱する頭で、ゆっくりと記憶の糸を手繰っていった。
(四年前………)
それは美穂がまだ大学生だった頃のことだった。美穂は夏に女友達二人と遊びに行った
沖縄で、そこに住む一人の男と出会った。そして気がつくと激しい恋に堕ちていた。
友達は二人とも止めた方がいいと美穂に忠告した。男に何か信用ならない気配を感じる
と言う。彼女達の経験から出た言葉だった。しかし、それまでまともに男と付き合ったこ
との無かった美穂は、男の外見や見せかけの優しさに、ものの見事に騙されてしまった。
男と出会って二日後、美穂は彼女たちの忠告を無視して、男に求められるままに体の関
係を結んだ。次の日には男にうまく言いくるめられ、ヌード写真を撮られていた。
美穂が男の正体に気がついたのは、さらに裏本まがいの写真までも撮られてしまった後
だった。
男は写真をネタに美穂を脅迫し、金を脅し取ろうとしていた。美穂は、男が仲間にその
計画を話しているのを偶然立ち聞きし、自分が男に騙され、恐ろしい罠に陥れられようと
していることを知った。
地面がガラガラと足許から崩れ落ちていくような衝撃だった。燃え盛っていた美穂の恋
心は一瞬にして冷たく凍りついていた。
自分の愚かさを思い知らされた美穂は、男の手から撮影済みのフィルムを取り戻すため、
最後にもう一度だけ男に抱かれなければならなかった。二度と経験したくないおぞましい
セックスだった。
美穂は男が寝入ったのを見計らい、男の部屋からフィルムを探し出した。驚いたことに
フィルムのほとんどは現像され、すでに写真が出来上がっていた。
美穂はそれらの写真とネガとまだ現像されていないフィルムをすべて持ち出し、誰もい
ない真夜中の砂浜で燃やした。
ゆらゆらと揺れる炎をぼんやりと見つめているうちに涙が溢れてきた。なんだか自分が
ひどく惨めに思えて、涙はなかなか止まらなかった。
突然、帰ると言い出した美穂に友人達は何も言わなかった。何もかも分かっていて黙っ
ていてくれているようだった。美穂は友人達の優しさに感謝した。彼女達の忠告に従い、
男に名前以外の情報を教えなくて本当に良かったと思った。
その夏、美穂は心の奥に深い傷を負った。
そしてそれ以来、誰とも付き合っていない。言い寄って来る男はみんな何か魂胆があっ
て近づいて来るように思えて、どうしてもそんな気になれなかった。
(でも写真は全部燃やしたはず……もしかしたら合成写真の悪戯かも)
まるで別の人物の顔と体を繋ぎ合わせ、ひとつの写真にしてしまうことが出来るとどこ
かで聞いた事がある。もしかしたらと思い、美穂は改めて良く見ようと写真のうちの一枚
を手に取った。
全裸姿の自分が写った写真……体と顔の大きさの対比、角度、影など不自然なところは
無い。次にその背景になっている部屋の様子を、美穂は注意深く観察した。ベッド、テー
ブル、椅子、それらはいずれも美穂の四年前の記憶とほぼ一致していた。
次第に暗く沈んでいく美穂の目に、決定的とも言える証拠が飛び込んで来た。部屋の隅
に置かれたトランク、そのトランク自体はごくありふれた物だったが、その取っ手からぶ
ら下がっている犬の縫いぐるみに見覚えがあった。写真ではぼやけてあまりはっきりと写
っていないが、一目見て美穂には分かった。ずっとお守り代わりにしていた物だ。今でも
部屋の戸棚の上に飾ってある。身間違うことは無い。あの時も確かにお守りとして沖縄ま
で持って行った記憶がある。
(やっぱり本物だったんだ。合成写真じゃない……)
美穂はがっくりと肩を落とした。美穂には、ただひたすらこれが何かの間違いであって
欲しいと願い続けることしか出来なかった。
どれくらいそうしていただろう。
コンコン……コンコン…
入口のドアがノックされる音に、美穂はビクリと体を震わせた。慌てて写真を封筒に突
っ込み、その上に参考書とノートを乗せる。
コンコン…コンコン…
催促するように響くノックの音に、
「あ、はい、ちょっと待って」
美穂は立ち上がると急いで鍵を外し、ドアを開けた。開け放たれたドアの外には橡葉が
立っていた。
「あの写真、見て頂けたようですね」
橡葉は暗い声で言うと、美穂を閲覧室の中へ押し込めるようにして入ってきた。美穂は
気圧されるように二、三歩後じさる。
「橡葉先生?」
橡葉の表情にただならぬ気配を察し、美穂の声はうわずっていた。橡葉が後ろ手にドア
の鍵をかけると、不安はよりいっそう大きくなる。
「写真を見た感想を聞きたくてね」
橡葉はドアの前を離れると、テーブルを囲むようにして置かれた椅子の一つに腰掛けな
がら言った。
「か、感想って…」
美穂はドアのそばで体を強張らせたまま小さな声で呟く。嫌な予感に背中がぞくぞくと
震える。
「見たんでしょう。あの写真を」
美穂の気のせいだろうか、橡葉の声にギラギラとした欲望の気配を感じる。
「あ、あれを…いったいどこで……」
橡葉の顔を見るのが怖くて、美穂は橡葉に背を向けたまま言った。
「僕の母方の実家が沖縄にありましてね……この前のゴールデンウイークに久しぶりに帰
ったんですが、そこである人物から買い取りました」
「お…きな…わ……」
沖縄という地名に美穂の心は激しく動揺した。
(やっぱりあの時の写真?……でも、どうして?、全部燃やしたはずなのに……)
何かの間違いであって欲しいという美穂の願いは、橡葉の次の一言で脆くも崩れ去った。
「鉾末(ほこすえ)さんという方なんですけど……」
美穂はうちひしがれた。橡葉の口から出たその名前こそ、美穂が忘れたくても忘れられ
ない忌まわしいあの男の名前だったからだ。
(やっぱり、本物だったんだ……まだ残っていたんだわ、あの時の写真が……)
美穂は激しい目眩に襲われ、壁に手を突いて体を支えた。
「……で、どうなんです?、あの写真に写っているのは那村先生なんですか?」
美穂の様子などお構い無しに橡葉が言う。
どう答えるべきなのか、美穂は迷った。橡葉がどういうつもりでそんな質問をしている
かが分からなかったからだ。
「何だったら他の人にも見てもらいましょうか?」
「だ、駄目っ! それは駄目よ」
美穂は振り向くと慌てて言った。そして、橡葉の暗い表情の中に燃え盛る欲望の炎を見
てしまった。橡葉は明らかに陵辱者の目で美穂をじっと見つめていた。
(ああ、まさか橡葉先生、わたしを……)
美穂の心は絶望に凍りつく。
「あれは、那村先生ですよね」
もう一度念を押すように橡葉が言うと、
「え、ええ……」
美穂は躊躇いがちにそう答えた。橡葉は曖昧な美穂の答が不満だったのか、
「もっとはっきり答えてください」
「あ、あれは……あれはわたし…です」
美穂は俯いて今にも消え入りそうな声で告げた。
それは、その後の美穂の運命を決定づける一言になった……
